「あの駅、この十年でずいぶん名前が挙がるようになったよね」。不動産の雑談の場で、そんな一言を耳にする回数が増えた気がする。渋谷、豊洲、麻布台、武蔵小杉。挙がる駅の顔ぶれは少しずつ移り変わりながら、それでも同じ名前が繰り返し出てくる。

先に断っておきたい。この記事の順位は、価格や騰落率の数字を並べたものではない。編集部が「資産価値が語られる要因の強さ」という独自の軸で並べた見立てであり、絶対的な優劣を決める公式の順位ではない。地価や取引価格は日々動くし、駅ごとの事情も一様ではない。ここで見ているのは、もっと構造的な話——なぜその駅の名前が、資産価値の会話の中で繰り返し呼ばれるようになったのか、という理由の強さと持続性だ。

首都圏の駅前と街並み、遠くにタワーマンションが見える夕景のイラスト

見立ての軸——再開発・交通・街ブランドで見る理由

資産価値が語られる理由は、突き詰めると三つの構造的なドライバーに収斂することが多い。ひとつは再開発の規模——街の姿そのものを変えるような大規模プロジェクトが動いているかどうか。ふたつめは交通利便の向上——新しい路線や新駅、乗り換えの改善が、その街の「行きやすさ」を底上げしているかどうか。みっつめは街ブランドの確立——メディアや口コミの中で、その街の名前が「良い場所」として定着しているかどうかだ。

ここでは、この三つの重なり具合を編集部の目でならし、精密なスコアではなく大づかみな傾向として順位に落とし込んでいる。同じ結果を誰が見ても導けるような計算式ではないし、来年にはまた顔ぶれが変わっているかもしれない。そのくらいの緩さで読んでもらえたらと思う。

この10年、名前が挙がり続けた駅——編集部の見立て

第1位 渋谷——「100年に一度」と呼ばれた再開発の代名詞

渋谷を1位に置くことに、驚く人は少ないだろう。渋谷駅周辺の再開発は「100年に一度」と称されるほどの規模で進み、2019年の渋谷スクランブルスクエア開業をはじめ、複数の超高層タワーが十年以上かけて街の輪郭を描き直してきた。若者の街という長年のイメージに、ビジネス拠点としての顔が重なり、渋谷という名前は不動産の会話の中で「まだ変わり続けている場所」として語られることが多い。

交通の面でも、渋谷は東急・JR・東京メトロ・京王井の頭線が集まる結節点であり続けている。再開発の規模、交通の利便、そして「渋谷」という街ブランドの強さ——三つのドライバーがそろって長く効き続けている点で、渋谷は今回の見立てで最上位に置いた。

第2位 神谷町・麻布台——2023年開業、大規模複合再開発という一手

2023年に開業した麻布台ヒルズは、東京都心の再開発としてひときわ大きな話題を集めた。超高層複合施設がオフィス・住宅・商業・文化施設を一体で抱え込む規模感は、神谷町・虎ノ門・六本木一帯のイメージを塗り替えるだけの力を持っていた。同じ事業者が手がけてきた六本木ヒルズの実績も重なり、「大規模複合再開発は資産価値の話題を押し上げる」という語られ方に、麻布台は新しい実例を加えた形になる。

この一帯は、単発のプロジェクトというより、周辺の再開発が連鎖してきた土地でもある。街ブランドが確立してからまだ日が浅い分、渋谷ほどの持続性の実績は積み上がっていないが、再開発の規模という一点では、ここ数年でもっとも語られた場所のひとつだろう。

第3位 品川・高輪ゲートウェイ——新駅と、広域交通の起点という話題

高輪ゲートウェイ駅は2020年に開業した、山手線では約半世紀ぶりとされる新駅だった。その周辺で進む再開発は、JR東日本が旧車両基地跡地を使って手がける大規模プロジェクトで、新駅開業から数年をかけて段階的に街の姿を整えてきた。

隣接する品川は、リニア中央新幹線の起点として計画上たびたび名前が挙がってきた駅でもある。整備のスケジュールは今なお変動が続いているため、この点は「計画として公表されてきた」という段階の話にとどめておきたい。それでも、新駅・大規模再開発・将来の広域交通という三つの話題が重なる場所として、品川・高輪ゲートウェイ一帯は資産価値の会話に繰り返し登場してきた。

第4位 勝どき・晴海——オリンピック選手村跡地という大規模分譲

2021年の東京オリンピック・パラリンピックの選手村として使われた晴海五丁目西地区は、大会後にHARUMI FLAGという大規模住宅地として生まれ変わった。ひとつの街区でこれだけの住戸数を一度に世に送り出したプロジェクトは多くなく、その規模感だけでも十分に話題性がある。

隣接する勝どきは、都心へのアクセスの良さと湾岸らしい開放感で、以前から住みたい街として名前が挙がる場面が目立つ場所だ。晴海地区では地下鉄新線の構想も報じられてきたが、これも計画段階の話であることを付け加えておく。オリンピックのレガシーという物語性、大規模分譲という事実、そして交通改善への期待——この組み合わせが、勝どき・晴海を資産価値の話題の常連にしてきた。

第5位 豊洲——湾岸再開発が積み上げてきた生活利便

豊洲は、2000年代から続く湾岸エリアの再開発の中でも、生活の利便性を着実に積み上げてきた街だ。ららぽーと豊洲をはじめとする商業施設、オフィス、タワーマンションが同時並行で整備され、「住む・働く・買い物する」がひとつのエリアで完結する街づくりが長く続いてきた。

派手な一発のニュースというより、十数年かけて地道に生活基盤を積み上げてきた点が豊洲らしさだ。再開発の規模と持続性という意味では、今回の見立ての中でも息の長いタイプに入る。

第6位 武蔵小杉——タワーマンションの代名詞と、忘れてはいけない留意点

武蔵小杉は2010年代、タワーマンション林立の代名詞として、資産価値の会話にもっとも頻繁に登場した駅のひとつだった。JR南武線・横須賀線・東急東横線・目黒線が交わる交通利便の高さと、次々に建つ高層マンションの供給が重なり、街のブランドイメージは短期間で大きく塗り替わった。

ただ、この街には中立に触れておくべき事実もある。2019年の台風19号では、周辺の一部で浸水被害が報じられた。再開発の規模や交通の利便がどれだけ強いドライバーであっても、こうした留意点が消えるわけではない。武蔵小杉を見立ての中位に置いたのは、この両面をならした結果だ。街の資産価値を考えるときは、華やかな話題と同じくらい、こうした留意点にも耳を傾けたい。

第7位 北千住——五路線が交わる、下町の結節点

北千住は、JR常磐線・東京メトロ千代田線・日比谷線・東武スカイツリーライン・つくばエクスプレスが乗り入れる、都内でも有数の交通結節点だ。乗り換えの多さそのものが、この街の資産価値の話題で名前が挙がる最大の理由になっている。

下町という土地柄への再評価も、ここ数年でよく語られるようになった。派手な超高層再開発が主役というより、もともと強かった交通利便に、街の空気そのものへの見直しが重なった、という順番で資産価値の話題に押し上げられてきた駅だと言える。

第8位 流山おおたかの森——つくばエクスプレスが変えた郊外の顔

2005年のつくばエクスプレス開業は、流山おおたかの森という駅の存在感を大きく変えた。都心へのアクセスが一気に改善したことに加え、流山市が子育て世代の呼び込みに力を入れてきたことも広く知られており、人口が増え続ける街として名前が挙がりやすくなった。

都心の超高層再開発とは違う種類の話だが、新線開業という交通の変化が、街ブランドの確立にまでつながった好例と言える。持続性という点では、都心のエリアに劣らない粘り強さを見せてきた駅だ。

第9位 武蔵小山——駅前再開発が積み重ねる、もう一つの実例

武蔵小山は、都心の巨大プロジェクトほどの知名度はないものの、駅前の再開発によって着実に姿を変えてきた街だ。商店街のアーケードで知られたこのエリアに、タワーマンションを含む再開発が加わり、街の顔つきは少しずつ更新されてきた。

全国区の話題性という点では、ここまでの駅に比べると控えめだ。それでも、駅前再開発というドライバーが着実に効いている実例として、今回の見立てでは選外にしなかった。

編集部メモ。 ここまでの順位は、価格の上がり幅や騰落率のような数値指標を並べたものではない。「資産価値が語られる理由がどれだけ強く、どれだけ長く続いているか」という、編集部独自の目線でならした見立てだ。地価や取引価格そのものは、地域・時期・物件によって大きく変わる。順位そのものより、それぞれの街がなぜ話題に挙がるのかという理由の中身を、読み比べてもらえたらと思う。

街選びは、急がなくていい

駅の名前が資産価値の話題に挙がるようになる過程には、それぞれ違う理由がある。渋谷のように何十年もかけて街の輪郭を描き直してきた場所もあれば、晴海のように一度の大きな出来事が街を生まれ変わらせた場所もある。どちらが良い悪いという話ではない。

大事なのは、ここに挙げた駅の名前を鵜呑みにしないことだ。資産価値は本来、数字と一次情報で語られるべきもので、こうした見立てはあくまで背景を理解するための手がかりにすぎない。実際に住む場所や買う物件を考えるときは、地価や取引価格の最新データ、そして宅地建物取引士のような専門家の言葉に、あらためて耳を傾けてほしい。投資であれ暮らしの場であれ、判断の最終的な責任は、その人自身にある。

街を選ぶことは、急いで結論を出さなくていい種類の決断だ。ここに並べた駅も、並べなかった駅も、これから先の十年でまた顔ぶれを変えていくだろう。相場と資産性の基本にも書いたとおり、ひとつの見立てだけで決めず、公的データと自分の目で確かめる時間を、どうか惜しまないでほしい。

参考

  1. 国土交通省(都市再生に関する施策・全国の認定プロジェクト情報)
    https://www.mlit.go.jp/toshi/machi/index.html
  2. 東京都都市整備局(晴海五丁目西地区・市街地再開発事業の公式情報)
    https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/machizukuri/shigaichi_seibi/sensyumura/redevelopment_project
  3. TAKANAWA GATEWAY CITY 公式サイト(JR東日本)
    https://www.takanawagateway-city.com/
  4. 麻布台ヒルズ 公式サイト(森ビル)
    https://www.azabudai-hills.com/
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